EPS(電気生理学的検査:Electrophysiological Study)とは、心臓の中に細いカテーテル電極を複数留置し、
心内の電気信号(心内電位)を記録しながら、電気刺激で不整脈を誘発・分析して、その正体(メカニズムと発生源)を突き止める検査です。体表心電図だけでは分からない「どこで・どういう仕組みで不整脈が起きているか」を、心臓の内側から直接調べます。多くの場合、診断がついたその流れで
アブレーション(焼灼治療)まで一気に行います。EPSはアブレーションの
設計図を描く工程であり、ここを理解することが不整脈治療全体の理解につながります。
EPSの目的:4つの問いに答える
EPSは、おおまかに次の問いに答えるために行います。
- ①メカニズムは何か:リエントリー(回路をぐるぐる回る)か、異常自動能・撃発活動(一点から連発する)か。仕組みが違えば治療点も変わります。
- ②どこが発生源・回路か:頻拍の最早期興奮部位(focus)や、リエントリー回路の「峡部(critical isthmus)」を特定します。
- ③伝導系の状態はどうか:洞結節・房室結節・His-Purkinje系の機能を評価します(失神やブロックの精査)。
- ④治療の効果判定・リスク評価:焼灼後に「もう誘発されないか」を確認したり、突然死リスクを層別化したりします。
カテーテルの配置:4本の基本ポジション
診断EPSでは、右心系の静脈(主に大腿静脈)から数本の電極カテーテルを進め、心臓内の決まった場所に置きます。基本となるのは次の配置です。
- 高位右房(HRA:High Right Atrium):洞結節の近く。心房の興奮の起点やペーシング刺激に使います。
- His束(ヒス束):三尖弁の中隔側に置き、房室接合部の電位を記録。ここでA(心房)・H(His)・V(心室)の3つの波が並んで見えるのが最重要ポイントです。
- 右室心尖部(RVA:Right Ventricular Apex):心室のペーシングや、心室からの逆行性伝導の評価に使います。
- 冠静脈洞(CS:Coronary Sinus):左房と左室の間を走る静脈にカテーテルを入れ、左側の心房・房室弁輪の興奮順序を左右に並んだ電極で読みます。副伝導路やリエントリーの左右差を見る要。
これに加え、頻拍の発生源を面で追う場合は
3Dマッピング用のマッピングカテーテルや、アブレーションカテーテルを追加します。
まず読む基本波形とインターバル
His束電位図では、心房波(A)・His束波(H)・心室波(V)が順に並びます。この間隔(インターバル)が伝導の「渋滞」を見る物差しになります。
- AH間隔:心房からHis束まで=房室結節の伝導時間を反映。房室結節は「わざとゆっくり伝える」性質(減衰伝導)があり、ここが延びやすい。
- HV間隔:His束から心室まで=His-Purkinje系の伝導時間。ここの延長は将来の高度房室ブロックのサインになりうる(失神精査で重視)。
これらのベースライン値と、刺激をかけたときの変化を見ることで、伝導系のどこに問題があるかを絞り込みます。
プログラム刺激:不整脈を「呼び出す」技術
EPSの核心が
プログラム刺激(programmed electrical stimulation)です。決まったタイミングで電気刺激を送り、伝導系の性質を測ったり、隠れている頻拍を安全な管理下で誘発したりします。
連続刺激(インクリメンタル/バースト)
一定周期でどんどん速くペーシングし、房室結節が「ついてこられなくなる」点(
ウェンケバッハ周期)を調べます。房室伝導の余裕(伝導能)を評価する基本手技です。
期外刺激(エクストラストローク:S1-S2法)
基本の連続刺激(S1を8発など)に続けて、1発だけ早いタイミングの刺激(S2)を入れ、その連結期を1回ごとに縮めていきます。さらにS2・S3・S4と早期刺激を重ねることもあります。これにより、
- 不応期(refractory period):組織が「次の刺激を受け付けない時間」。S2を縮めていって伝わらなくなる直前の連結期から、心房・房室結節・心室などの有効不応期(ERP)を測定します。
- 二重房室結節伝導路(dual pathway):S2を縮めた瞬間にAH間隔が急に「ジャンプアップ」すれば、速伝導路がブロックされ遅伝導路に切り替わった証拠。AVNRTの下地を示します。
- 頻拍の誘発:早期刺激がリエントリー回路の「タイミングの隙間」に入ると頻拍が始まります。誘発できれば、その場で仕組みを解析できます。
洞結節・房室結節機能の評価
心房を一定時間ペーシングして止めた後、洞結節が再び動き出すまでの時間(
洞結節回復時間:SNRT)を測り、洞不全の評価に使います。房室結節については前述のウェンケバッハ点やERPで伝導予備能を評価します。
頻拍を「鑑別」するマニューバ
頻拍が誘発できたら、次は
「どのメカニズムか」を刺激手技(マニューバ)で切り分けます。ここがEPSの醍醐味であり、腕の見せどころです。
心室からの刺激とVA関係
頻拍中の心室興奮(V)と心房興奮(A)の順序・間隔(VA関係)は、鑑別の一丁目一番地です。VAが非常に短い(Aとほぼ同時)ならAVNRTを、一定の間隔をもって心房が最早期に光る場所が偏っていれば副伝導路(AVRT)を疑う、といった読み方をします。
エントレインメント(entrainment)
頻拍の周期より少し速くペーシングして頻拍を「引き込み」、ペーシングを止めた後の
復帰周期(PPI:Post-Pacing Interval)を測ります。ペーシング部位がリエントリー回路の中にあればPPIは頻拍周期にほぼ一致し、回路から遠いほど長くなります。
リエントリー性頻拍(心房粗動・VTなど)の回路を特定する強力な手法です。
パラヒサリアン・ペーシング(para-Hisian pacing)
His束のごく近くを刺激し、出力を変えてHis束を「巻き込むとき/巻き込まないとき」で心房への伝わり方が変わるかを見ます。
中隔近傍の副伝導路の有無を判定するための古典的マニューバです。
不整脈ごとのアプローチ
EPSで扱う代表的な頻拍と、その見分け方・治療点の考え方を整理します。それぞれ奥が深いため、詳細は個別記事に展開していきます。
房室結節リエントリー性頻拍(AVNRT)
房室結節周囲に
速伝導路と遅伝導路が存在し、その間でリエントリーが回るもっとも頻度の高い発作性上室頻拍。EPSでは前述の「ジャンプアップ」やエコー、極めて短いVA関係が手がかり。治療は
遅伝導路(slow pathway)の焼灼が標的で、房室ブロックを避けながら行います。
房室回帰性頻拍(AVRT)・WPW症候群
房室結節とは別に、心房と心室を直接つなぐ
副伝導路(accessory pathway)を回路に含む頻拍。体表心電図でデルタ波が見えればWPW症候群。EPSでは副伝導路の位置(CS電極やマッピングで最早期部位を探索)と、順行・逆行の伝導性を評価し、
副伝導路そのものを焼灼します。
心房頻拍(AT)
心房内の一点から連発する
巣状(focal)と、瘢痕などを回る
マクロリエントリー性があります。巣状ATは最早期興奮部位を、リエントリー性はエントレインメントと3Dマッピングで回路を同定します。
心房粗動(AFL)
典型的な心房粗動は、右房の
三尖弁輪-下大静脈間峡部(CTI)を回るマクロリエントリー。エントレインメントでCTI依存性を証明し、
CTIラインを焼灼して両方向ブロックを作るのが治療の到達点です。
心室頻拍(VT)
器質的心疾患後の瘢痕関連リエントリーVTでは、
基質(substrate)マッピングで低電位領域や遅延電位を探し、エントレインメントで回路の峡部を同定して焼灼します。特発性VTは最早期部位を追う巣状のアプローチが中心。血行動態が不安定なVTでは、3Dマッピングや基質ベースの戦略が重要になります。
3Dマッピングとの連携
近年のEPS・アブレーションは、心臓の立体形状の上に興奮の時間差(アクチベーションマップ)や電位の強さ(ボルテージマップ)を色で描く
3Dマッピングシステム(CARTO・EnSite・Rhythmia等)と一体で行われます。従来のカテーテル電位の「点」の情報を「面」で可視化することで、複雑な回路や瘢痕の全体像がつかみやすくなりました。
合併症
EPS単独は比較的低リスクですが、侵襲的検査である以上、穿刺部の出血・血腫、血管損傷、まれに心穿孔・心タンポナーデ、血栓塞栓、不整脈誘発に伴う血行動態の変動などがありえます。アブレーションを併施する場合は、術式ごとの合併症(食道障害・横隔神経麻痺など)が加わります。頻度は施設・術式で異なるため原典で確認してください。
参考・出典
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