FFR/iFR
冠血流予備量比 (FFR) とは
冠動脈造影を行うと冠動脈内の狭窄度は把握することができますが、狭窄病変によってどのくらい血流量が阻害され血管が血液を送っている組織や細胞に血液が十分に供給されない状態(虚血)に至っているかまではわかりません。そのため、狭窄度がそこまで強くない(いわゆる中等度狭窄)である場合や狭窄を認める部分が複数ある場合にその部分が実際に症状の原因となっているか判断できない場合がありました。
そのような場合に心筋血流予備量比(fractional flow reserve;FFR)は、冠動脈造影の後に先端に圧センサーがついたガイドワイヤー(図1)で、冠動脈内圧を測定し、狭窄部位の遠位部と近位部の圧を比で算出することで血流量が狭窄部位でどのくらい低下しているか評価することのできる検査です。(図2)

冠動脈狭窄の定量的評価
冠動脈狭窄に対して虚血があるかどうか評価方法が解剖学的評価、機能的評価
の2種類があります。
解剖学的評価
QCT(Quantitative Coronary Angiography)IVUS(Intravascular Ultrasound)
解剖的に細いかどうかを評価します。
機能的評価
CFR:Coronary Flow Reserve(Doppler Flowire)FFR:Fractional Flow Reserve(Pressure Wire)
iFR:instantaneous wave-Free Ratio(Pressure Wire):瞬時血流予備量比
血圧差を見て酸素供給がされているかを評価します。
FFR,iFRを機能的評価に分類されます。
なぜ解剖だけではダメなのか
造影だけで 50–90 % 狭窄の機能的意義は判然としません。血行動態を直接測る指標が「治療すべき病変」を選別し、PCI の適正化・予後向上に直結することが大型 RCT で証明されていますFFR定義
狭窄がないと仮定した血管の「最大冠拡張時血流量」に対する狭窄が存在する血管の「最大冠拡張時血流量」の比(狭窄の存在下での最大増加血流量が、その狭窄が存在しないと仮定した場合の最大増加血流量に対してどの程度低下しているか、その割合を示す指標)

カテーテルから得られる大動脈圧と、冠動脈の狭窄の先の血圧の比をとります。
ただし、その際に、最大充血、Hyperemiaを起こす必要があります。
例えば、最大充血下で、平均大動脈圧が100mmHg、狭窄の先の平均血圧が70だとすると、FFRは70÷100で0.7となります。
狭窄の無い血管であれば1.0となり、数値が低い方が虚血の程度が強いことを意味します。
最大充血:Hyperemia

ATPやパパベリンは微小血管抵抗を下げる

運動時など心臓に負荷がかかった時と同じ状態となります。
従って、カテーテル検査中に、運動をしたときと同じような冠動脈の状態を作り出します。
電気のオームの法則と同様に、冠動脈の血圧は、冠動脈の血流と微小血管の抵抗で規定されています。最大充血を起こし、血管抵抗を下げることで、圧ワイヤーで冠血流の評価が可能となるのです。
各指標のメカニズム&測定タイミング
指標 | 測定相 | 薬剤負荷 | 本質的ターゲット |
---|---|---|---|
FFR | 全周期(過大血流時) | アデノシン | 狭窄に起因する最大血流減少率 |
iFR | 拡張期 wave-free 区間 | 不要 | 安静時自然“低抵抗期”での圧較差 |
RFR | 心周期 全域で最小 Pd/Pa | 不要 | “最大圧勾配点”を自動サーチ |
dPR | 拡張期平均 Pd/Pa | 不要 | iFR と同一閾値・数学処理違い |
Pd/Pa(rest) | 全周期平均 | 不要 | 単純比だが特異度低い |
Angio-FFR/QFR | 造影像+AI流体計算 | 不要(ワイヤレス) | ほぼ FFR と同義(非侵襲) |
FFRエビデンス
・DEFFER Study・FAME Study
・FAME II Study
エビデンス・アラカルト(主要 RCT & 5 年追跡)
試験 | 指標 | N | 主要転帰 | 5 年結果 |
---|---|---|---|---|
FAME | FFR | 1 005 | PCI vs OMT | MACE 13→8 % (PCI) |
FAME 2 | FFR | 1 219 | FFR-guided PCI vs OMT | MACE 34→17 % |
DEFINE-FLAIR | iFR vs FFR | 2 492 | 死亡/MI/リバスキュ | 非劣勢、重篤出血 28 %↓ |
iFR-SWEDEHEART | iFR vs FFR | 2 037 | 同上 | 非劣勢、手技時間 40 %↓ |
Meta 5-Year | 上記2試験 | 4 529 | 死亡/MI 非劣勢 | 確認済 |
VALIDATE-RFR | RFR vs iFR | 1 385 | 診断一致率 | 95 %、AUC 0.86 |
PROVISION | Angio-FFR vs Wire-FFR | 350 | コスト&資源 | 20 % コスト減、被曝↓ |
Lancet QFR-PCI | QFR vs FFR | 1 928 | Non-inferiority | MACE 同等、手技時間 –15 min |
グレーゾーン”の実戦アルゴリズム
STEP 1 iFR/RFR/dPR 計測├─ ≤0.86 → PCI
├─ 0.87–0.93 → 追加 FFR (Hybrid:DEFINE-FLAIR)
└─ ≥0.94 → OMT
(喘息・低血圧でアデノシン禁忌なら CFR/IMR を併用) Hybrid 戦略でアデノシン使用を 65 % → 32 % に削減、MACE 差なし。
Discordance(FFR≠iFR/RFR)対策
- 約 14 % に発生。
- CFR ≥2.5 & IMR <25 U → エピ狭窄主導 ⇒ PCI 有益
- CFR <2.0 or IMR ≥25 U → 微小循環障害 ⇒ PCI 効果乏しい
コスト
手技 | デバイス | 平均コスト(日本) | コメント |
---|---|---|---|
FFR | 圧ワイヤ 1 本 | 約 110,000 円 | アデノシン含まず |
iFR/RFR | 同上 | 同額 | 薬剤コストゼロ・時間–5 min |
Angio-FFR/QFR | ソフト使用料 | 70,000 円 | ワイヤ不要・被曝↓・短時間 |
iFR (instantaneous wave-Free Ratio)
iFRとは?wave-free periodにおける狭窄前後の瞬時圧比(Pd/Pa)
wave-free period
心周期において抵抗が一定で最小になる時相

・抵抗が一定の為、血流と血圧が直線相関関係となりやすい期間である
・1心周期の平均血流速度より高い平均血流速度となるため、診断能(判別能力)がより高くなる期間である
RFR (Resting Full-Cycle Ratio)
RFRとは?1心周期のPd/Paの値を時系列に並べ独自のフィルタリングをかけ、一番低い値をRFRとしている。

各社安静時指標一覧


Philips | Abbott | Boston | Opsens |
iFR | RFR | dFR | dPR |
Wave free periodにおけるPd/Pa値 | 1心周期中の一番低いPd/Pa値 | 拡張期全体の平均Pd/Pa値 | 拡張期全体の平均Pd/Pa値 |
5心拍の平均 | 4-5心拍の平均 | 5心拍の平均 | 5心拍の平均 |
安静を妨げる要因
造影生食のフラッシュ、薬剤の使用
ワイヤ操作
PCI
会話や咳、緊張や不安などの心理的影響
測定時の注意事項
造影してから2 分以上待つ
生食フラッシュしてから2 分以上待つ
ニトロ投与後2 分以上待つ
ワイヤ操作から2 分以上待つ
会話や咳を避ける、緊張や不安を取り除く
PCI 後は負荷がかかっており値の信憑性が低い可能性がある
フィリップス
OmniWire



アボット


Boston
COMET ll

iFR フィリップス Verrata Plus
RFR アボット
dFR ボストン
dPR(diastolic hyperemia-free ratio)ゼオン
まとめ
閾値統一:FFR ≤0.80、iFR/RFR/dPR ≤0.89 がPCI適応のグローバル基準。Hybrid で効率化:非ハイパー指標→グレーのみ FFR で薬剤・時間を半減。
Discordance には IMR/CFR:微小循環・エピ狭窄を完全分離して戦略最適化。
Angio-FFR/QFR が急伸:ワイヤレス機能評価が第 3 の標準へ。
Guideline 2024:FFR or iFR/RFR は中間狭窄の“必須評価”(クラス I);AI-FFR は IIb 推奨で要検証。
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参考
SyncVision
COMET™Ⅱ
iFR(wave-free period)
Development and Validation of a New Adenosine-Independent Index of Stenosis Severity From Coronary Wave–Intensity Analysis: Results of the ADVISE (ADenosine Vasodilator Independent Stenosis Evaluation) Study
https://reader.elsevier.com/reader/sd/pii/S073510971104767X?token=CF8FC7316B62FFD4E0F83CBB39C888EC740C1BF2CDF5967B3679E023CC776F0C3A51AB79610865087138EEA38D13717C&originRegion=us-east-1&originCreation=20230513101801
RFR
Validation of a novel non-hyperaemic index of coronary artery stenosis severity: the Resting Full-cycle Ratio (VALIDATE RFR) study
https://eurointervention.pcronline.com/article/validation-of-a-novel-non-hyperaemic-index-of-coronary-artery-stenosis-severity-the-resting-full-cycle-ratio-validate-rfr-study
dFR
Comparison of Different Diastolic Resting Indexes to iFR: Are They All Equal?
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S073510971741429X?via%3Dihub 企業ページ
フィリップス
https://www.philips.co.jp/healthcare/solutions/interventional-devices-and-therapies/coronary
アボット
https://www.cardiovascular.abbott/jp/ja/hcp/products/coronary/quantien/ht-tab/製品概要.html
国立循環器センターFFR
https://www.ncvc.go.jp/coronary2/column/20211209_03.html
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