ペースメーカ
徐脈性不整脈と障害部位
徐脈性不整脈:洞結節機能不全による「洞不全症候群」
房室伝導障害による「房室ブロック」
洞結節で生じた電気的興奮は、房室結節からヒス束、右脚、左脚、プルキンエ線維を経て、心室、心筋へ伝搬します。 徐脈性不整脈は、洞結節機能不全による「洞不全症候群」と、房室伝導障害による「房室ブロック」に分類されます。
植込み型心臓デバイスの基本的機能
• センシング: 自己の調律により捕捉された心内電位の感知• ペーシング: 心筋の電気的収縮を促す電気刺激の送出
体外式ペースメーカにおける基本設定
レート(Rate): 1分間あたりの電気刺激発生頻度 通常 50-70/分, Backup 30-50/分出力(Output): 電気刺激強度
感度(Sensitivity): 検出しうる最も低い心内電位波高
出力とペーシング捕捉閾値
出力は、電圧とパルス幅 (0.4-0.5 ms)により規定される定電圧方式: リード抵抗の変化に伴い電流量を可変, 一定の電圧を維持 ペーシング捕捉閾値: 心筋が電気刺激に反応する最も低い電圧
出力は、捕捉閾値の 2-3 倍に設定
体外式ペースメーカの基本作動
設定されたレートでセンシングがなければ、 ペーシングをおこなう。設定されたレートでセンシングがあれば、 ペーシングを抑制する。
シングルチャンバー恒久ペースメーカの VVI あるいは AAI modeに相当
恒久ペースメーカの基本構造
リードの構造と分類
タインドリードスクリューインリード
心内膜リード
心外膜リード
単極リード
双極リード
→リードについて
コード(NBG CODE)
1文字目 ペーシング(刺激部位)2文字目 センシング(感知部位)
3文字目 作動様式(反応様式)
4文字 レートレスポンス
刺激 | 感知 | 反応 | 作動 | 応答 |
O | O | O | O | |
A | A | T | M | P |
V | V | I | C | S |
D | D | D | R | D |
V:心室
A:心房
D:心房と心室
O:未施行
センシング後の作動様式
T:同期trigger
I:抑制Inhibit
D:その両者
O:未施行
同期、triggerモード
心房波をセンシングして、設定されたAV delay後に心室をペーシング
抑制Inhibitモード
心室波をセンシングして、心室ペーシングを抑制
→ペースメーカのコードについて(NBGコード)
モード
VVIDDD
DDI
VDD
AAI
→モードについて
ペーシング
ペースメーカ本体から出力されるパルス(電気刺激)のエネルギーはパルス電圧とパルス幅を設定することによって決定される
ペーシング閾値
心筋を脱分極(興奮)させることのできるパルスの強さの最小値をペーシング閾値という
出力の設定
ペーシング閾値を測定したら、出力の設定をセーフティマージンを加えて設定する。大まかの考えとして、ペーシング閾値の2倍の電圧が望ましい。
またペースメーカの電流の消費は、パルス電圧を2.5V以下に設定した場合とそうでない場合とでかなり異なってくる
→ペーシングについて
心房ペーシングの基本設定
洞調律下、労作時心房レートは上昇するが、洞不全症候群では心房レートは労作時に上昇しない(変時応答不全)。洞徐脈例ではレートレスポンスによる心房ペーシング活用が必要。
洞徐脈症例のレートヒストグラム: レートレスポンス 設定前後
前回読み込み時:
レートレスポンス オフでは 心房ペーシング 60ppmで固定 レートレスポンス オンに設定
今回読み込み時:
レートレスポンスによる 心房ペーシングレート上昇あり
心室ペーシングの基本設定
心室ペーシング依存例では、ペーシングに伴う心室非同期収縮により左室収縮能低下、心房細動および脳梗塞合併率が増加した。発作性房室ブロック例では不要な心室ペーシング回避が必要。
自己の房室伝導を温存するアルゴリズム(AAIモード優先型やAV delay延⻑型)を活用する。
シングル・デュアルチャンバー
房室ブロックは原則 デュアルチャンバーを選択(徐脈性心房細動除く)ルーズピン (Loose set screw)
リード先端がヘッダーに十分挿入接続されていないとノイズが混入する。センシング不全からペーシング抑制やICD 不適切作動の原因となりうる。
皮膜損傷
• 皮膜損傷ではノイズが混入し、センシング不全からペーシング抑制や ICD 不適切作動の原因となる。電池交換時に発見、術中損傷もある。• 植込み後、頻拍エピソードにノイズが記録されることもある。
感度(sensitivity)の設定
感度は、通常心内電位波高の 約 1/3に設定する感度が鋭いと、ノイズやT波を検知する: オーバーセンシング
感度が鈍いと、波高が低い心内電位は検知せず: アンダーセンシング
(ICD ショックリードでは心室細動のアンダーセンシングに注意)
オーバーセンシング原因
振幅の大きなT波: T wave oversensing電磁干渉 (Electromagnetic Interference: EMI)によるノイズ
皮膜損傷やリード断線等によるノイズ
クロストーク: 心房ペーシングを、心室側でセンシング 心室ペーシングを、心房側でセンシング
心房側での心室波検知:
Far Field R wave (oversensing): FFRW type I, type II
筋電位(単極リード)、横隔膜電位 (integrated bipolar ICD lead)
オーバーセンシングを防ぐ基本設定
ブランキング期間: ペーシングやセンシング直後の心内電位を検知しない ペーシング出力や、収縮電位、ペーシング後リチャージパルスのダブル カウントによるペーシング抑制、心停止を防ぐ リチャージパルス: 電極の保護と分極電圧の影響を排除するため、 ペーシング後極性を反転させて電圧をかけるオーバーセンシングを防ぐ基本設定
Cross Chamber Blanking (CCB): クロストーク予防のため 心房ペーシング直後、心室側にブランキング期間を、 心室ペーシング直後、心房側にブランキング期間を設定。心房側オーバーセンシングを防ぐ基本設定
PVAB (Post Ventricular Atrial Blanking)心室波 (R波)を心房側で検知するFar field R-wave oversensingを予防するため、VS後心房側にブランキング期間を設定。
FFRW (Far field R wave) oversensing
FFRW TypeI:心室イベント後に心房側で検出
(多くは心室ペーシング後の心室波)
対策: 心房感度鈍く、PVAB延⻑
FFRW Type II :
心室イベント前に自己心室波 を心房側で検出
対策: 心室感度鋭く、モード スイッチ設定を調節
PVARP (Post Ventricular Atrial Refractory Period)
心室イベント後心房不応期 (PVARP)内では、心房イベントはARと認識、 トリガーしない。逆行性伝導によるP波をトリガーしたペースメーカー 起因性頻拍 (pacemaker mediated tachycardia: PMT)を予防。PMT Intervention
VP-AS間隔が400ms未満で8回連続した場合、9回目のPVARPを400msに 自動的に延⻑するプログラム。逆行性P波がARとなり、逆行性P波をトリガーしたペースメーカー起因性頻拍 (PMT)は停止する。
PMT再発予防のためにはPVARPを延⻑する。
Ventricular Safety Pacing
心房ペーシング後のventricular safety pacing (VSP)期間に心室センシング (VS)が生じると、VSP期間終了時に強制的に心室ペーシングを送出。1)クロストークの場合、心室ペーシング抑制を回避
2)心室期外収縮の場合、受攻期ペーシングを抑制 (Spike on TによるVF誘発を抑制)
植込み型除細動器 Implantable cardioverter defibrillator (ICD)
致死性不整脈(心室細動、心室頻拍)の検出、治療をおこなう。経静脈システムでは徐脈性不整脈に対するペーシング機能あり。 植込み型除細動器・ICDにより、致死性不整脈・心室細動や心室頻拍の検出、治療が行われています。 経静脈除細動リードを用いた経静脈システムでは、徐脈性不整脈に対するペーシング機能もあります。除細動リード、右室挿入部にはショックコイルが巻かれています。
最近、DF4型経静脈リードが主として用いられる。
抗頻拍ペーシングとショック作動
抗頻拍ペーシング: Anti Tachycardia Pacing (ATP) による VT 停止皮下植込み型除細動器(Subcutaneous ICD: SICD)
• ショックリードは傍胸骨皮下に、本体は左腋窩皮下に留置。• ショック作動は行うが、抗頻拍ペーシング(ATP)機能はなし。
• ショック作動後の徐脈に対してのみ、経皮ペーシングを行う。
ICD 頻拍に対する基本設定
• ショック作動により、適切不適切作動を問わず、死亡率は増加。• 抗頻拍ペーシング(ATP)を設定、心室細動検知は従来の設定よりも検知レートを高く、持続時間は⻑く設定する。
心臓再同期療法 (Cardiac resynchronization therapy: CRT)
• 左脚ブロック、左室収縮能低下を伴う慢性心不全症例に有効。• 左室リードを留置、左室側壁と中隔から両室ペーシングを施行。
• ICD 機能をもつCRT- defibrillator (CRTD)とpacing機能のみのCRT- pacemaker (CRTP) に分類。
両室ペーシングの設定
両室ペーシング設定について、植込み医師に確認を。• 4極ペーシングリードによる多点ペーシング
• 自己の刺激伝導系を活用した両室ペーシングアルゴリズム
植込み型心臓モニター (Implantable cardiac monitor: ICM)
傍胸骨皮下に留置し、徐脈や頻脈、心房細動の検出をおこなう。失神の原因検索、心原性脳梗塞疑いの症例では心房細動検出を目的とする。
植込み型心臓モニターによる心電図記録
症例1. 原因不明の失神例: 失神時に洞停止が記録される。 症例2. 塞栓原不明の脳塞栓例: 心房細動が初めて記録される。ペースメーカーとは
刺激伝導系の障害によって起こる徐脈を治療する機器
一拍ごとに自己の心拍を監視し、心拍が欠落した際にペースメーカーで電気刺激を補い、心臓を拍動させる
ペースメーカの目的
・徐脈の患者に対して植え込み、心拍数を増加させ、心拍出量を増加させる・心拍数が一定の値を下回らないように、必要に応じて電気刺激を加えて心筋を収縮させるきっかけを与える。
ペースメーカーは「テンポを作るもの」という意味で、心臓が「テンポを作るもの」として働くのが、何らかの障害で上手く働かなくなった場合にペースメーカーがその働きを代行する |
刺激伝導系
洞結節
房室結節
ヒス束
右脚・左脚
プルキンエ繊維
→刺激伝導系について
心電図の読み方
P波:心房の脱分極 正常値
PQ間隔:心房から心室に興奮が伝わるまでの時間
QRS心室の脱分極
ST:心室興奮の極期
T波:心室興奮の回復過程(再分極)
→心電図について
ペースメーカの種類
対外式ペースメーカ:TPM(テンポラリー)植え込み型(恒久式)ペースメーカ:PPM
対外式ペースメーカ
緊急に治療が必要な場合 ⇒ 一部は植え込み型に移行
経過とともに完全に回復が見込める場合に使用
植え込み型(恒久式)ペースメーカ:PPM →ペースメーカの種類について
植え込み型ペースメーカの構成
ペースメーカ本体(Generator)
ペーシングリード(Lead) ペースメーカ本体の構造
コネクタ
回路
電池(リチウム・要素電池)
正常洞調律と不整脈
第1度房室ブロック(I Atrioventricular Block, I AVB)
第2度房室ブロック(II Atrioventricular Block, II AVB)
ウェンケンバッハ型(モーピッツI型)
モービッツII型
第3度房室ブロック(III Atrioventricular Block, CAVB)
→不整脈について
ペースメーカの適応疾患
1徐脈性の洞不全症候群(SSS, sick simus)
洞性徐脈(sinus Bradycardia)
洞停止(Sinus Arrest)
徐脈頻脈性症候群(Bradycardia Tachycardia Syndrome)
2Ⅱ度房室ブロック(MobizⅡ型)
3Ⅲ度(完全)房室ブロック
4徐脈性心房細動(Af-Brady)
→適応疾患について
ペースメーカの働き(機能)
ペーシング:電気刺激(パルス)を発生させ心臓の筋肉を興奮させることセンシング:心臓が自らの力で拍動した時に、それを感知すること センシング
センシングとは自己心拍を検出(感知)することをいう
ペースメーカのセンシング回路にはフィルターが組み込まれている。このフィルターを通過した身内電位の振幅が設定されたペースメーカの感度の値以上であれば、ペースメーカはこれをP波またはR波を検出する
ペーシング不全(Pacing Failure)
ペーシングしても心筋が脱分極していない状態
センシング不全(Sensing Failure)
アンダーセンシング:自己脈を感知できずパルスを発生
オーバーセンシング:不適切な電位を感知しパルスを抑制
デュアルチャンバーペーシングの不応期
PVARP(Post ventricular Atrial Refractory Period)
PVAB(Post Ventricular Atrial Blanking)
心室ブランキング(Blanking)
心室不応期(Ventricular Refractory) デュアルチャンバ作動
基本設定項目
基本レート:60 bpm ディレイ 不応期(refractory Period)絶対不応期:ペースメーカはこの期間全ての活動を無視
相対不応期: ブランキング PMT
逆行性伝導 レートレスポンス
DDDの基本設定
DDDの設定レート・最低レート lower rate
・最高レート upper rate
・AVディレイ P波とQRS波の間の時間
ペースメーカ設定
自動閾値測定機能
VIP
AMSについて
PVAB(Post Ventricular Atrial Blanking)心室イベント後の心房ブランキング
ファーフィールドR波センシングの解決に使用 PVARP(Post Ventricular Atrial Refractory Period)心室イベント後の心房不応機 PMT(Pacemaker Mediated Tachycardia)ペースメーカ起因性頻拍リード抵抗
リードインピーダンス 挿入したリードが外れていないかリード抵抗で確認正常値:500~1500Ω リード抵抗が高い:リードと心臓の接触不良かリードの断線
リード抵抗が低い:電流のリーク PM
CRT-T
ICD
CRT-D
メーカー
→ペースメーカの業者について(PMの種類)
患者説明
ペースメーカー植込み
Pacing system analyzer (PSA) 設置、ケーブル準備体外式ペーシングリード留置 :体外式ペーシング関連項目計測
経静脈リード留置:留置前、閾値ほか仮計測、留置後及び終了前、計測
本体とリード接続:ペースメーカ設定
トラブルシューティング ルーズピンやリード異常の発見
(ICD 除細動閾値テスト ICD設定と確認 心室細動誘発体外式除細動準備と作動)
植込み後病棟での作動確認
• 植込み手術翌日-1週間以内にペースメーカチェックを施行• 臨床工学技士が(医師の指導のもと)病棟で施行
ペーシング捕捉閾値、電位波高、抵抗値の測定
不整脈イベントやエピソード、ペーシング率の確認
ペースメーカ設定 (モード、レート、出力、感度)の確認
退院後のデバイス診療支援
デバイス外来• 臨床工学技士が(医師とともに)ペースメーカチェックを施行 • 測定値異常の有無を判断
• 不整脈エピソードやICD作動状況を確認
• 設定変更につき医師に提案、指示を確認
遠隔モニタリング
• 遠隔モニタリングの導入説明、登録
• 定期外来受診前の定期送信データ確認、判断、次回送信日設定 • アラート送信データの確認、判断、情報の共有
• 未送信への対応
• モニタリング機器に関する患者問い合わせへの対応
MRI撮像時
• MRI撮像可能か再確認
• MRI撮像前にMRI モードに変更、撮像後設定変更
遠隔モニタリングの有用性
• 遠隔モニタリングにより、CRTD / ICD 症例の予後を改善し、 ペースメーカ症例の受診回数を安全に減らすことが可能。• 遠隔モニタリングでは電池電圧や計測値の経過観察が可能であり ICD作動やリード異常の早期確認、不適切作動の予防に有用。
ペースメーカ各社の遠隔管理システム
Medtronic CareLink
St.Jude Medical Merlin.net
Biotronik Home Monitoring
Boston Scientific Latitude
ペースメーカの歴史
1957 心筋電極と体外式ペースメーカによる心臓ペーシング
1958 心内膜リードと体外式ペースメーカによる心臓ペーシング
Ake Senning, Rune Elmqvist 世界最初の植え込み型ペースメーカ(充電式)
1964 最初のデマンド型ペースメーカ(VVI)
1970 リチウム電池を使用したペースメーカ
1974 ペースメーカ 本邦保険償還
1996 植え込み型除細動器(ICD) 本邦保険償還
2004 両室ペーシング(CRT-P)本邦保険償還
2006 両室ペーシング機能付き植え込み型除細動器(CRT-D) 本邦保険償還
2012 条件付きMRI対応ペースメーカ本邦保険償還
→ペースメーカの歴史について
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