透析患者における心血管合併症

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透析患者における心血管合併症について

 

脂質異常症

&.透析患者においても,脂質異常症は心血管疾患,特に心筋梗塞発症の独立した危険因子である.
&.ルーチン評価には,透析前(随時採血)の LDL-C,Non-HDL-C,HDL-C,TG でよい.
&.管理目標値は,虚血性心疾患の一次予防では,LDL-C 120 mg/dL 未満,あるいは Non-HDL-C 150mg/dL 未満,二次予防では LDL-C 100 mg/dL 未満,あるいは Non-HDL-C 130 mg/dL 未満とする.
&.食事・運動療法にて脂質管理目標に達しなければ,スタチンの投与を考慮する.
&.低脂血症を呈する場合は,栄養状態の評価と対策を考慮することが望ましい.
 

 

 

 

 

 

動脈硬化症

 

 

&.透析患者の心血管死亡リスク評価のためには,古典的危険因子に加え,腎不全特有の危険因子(貧血, 炎症・低栄養,ミネラル代謝異常など)も含めるべきである.
&.心血管リスク評価に,動脈壁肥厚度,動脈壁硬化度,血管石灰化なども利用する.

 

 

 

高血圧

 

&.透析患者における血圧は,透析室における血圧のみならず家庭血圧を含めて評価すべきである
&.心機能低下がない,安定した慢性維持透析患者における降圧目標値は,週初めの透析前血圧で140/90mmHg 未満とする
&.目標血圧の達成にはドライウェイト(DW)の適正な設定が最も重要である
&.DW の達成/維持後も降圧が不十分な場合に降圧薬を投与する

 

 

透析関連低血圧

&.透析関連低血圧は,透析中の血圧低下(透析低血圧:intradialytic hypotension:IDH),起立性低血圧(orthostatic hypotension),常時低血圧(chronic sustained hypotension)に分けられる.
&.透析時の急な血圧低下や透析終了後の起立性低血圧は予後不良の危険因子である.
&.低栄養(低アルブミン血症)は plasma refilling rate を低下させて血圧維持が困難となる要因となる.
&.最近生じた急激な透析中の血圧低下では,心臓超音波検査などで心機能を評価し,循環器医へ相談すべきである.
&.透析中の血圧低下を避けるためには時間あたりの除水量を軽減することが必要で,そのためには透析時間の延長も考慮されるべきである.

 

心不全

&.心不全とは,心室の収縮・拡張能力を損なう構造的,機能的な障害に由来する複合的臨床症候群であり,その主症状は諸臓器のうっ血である(A).
&.うっ血症状は,問診,理学的所見,胸部レントゲン写真で診断するが,透析開始前の評価を推奨する (1C).
&.原因として非心臓性浮腫の頻度も稀ではないが,特に虚血性心疾患が高率である(B).
&.治療の原則は,厳格な塩分制限に基づく体液量管理の徹底である(1A).
&.原因疾患の内科的治療の主体としてレニン・アンジオテンシン系阻害薬や b 遮断薬の投与を積極的に考慮する(1B).

 

虚血性心疾患

&.無症候性心筋虚血の頻度が高く,透析導入時より積極的な虚血性心疾患のスクリーニングを推奨する (1B).
&.息切れなどの症状,心不全,透析時の血圧低下,心電図,胸部レントゲンの変化などから心筋虚血の可能性を考慮する(1C).
&.心筋虚血が疑わしい場合には,心臓超音波検査を施行し,さらに心筋シンチグラフィなど非侵襲的検査による精査を進めることが望ましい(2B).
&.非侵襲的治療では心血管系薬物療法とともに,糖尿病,高血圧,高脂血症,喫煙など冠危険因子の是正が望ましい(2B).
&.急性心不全では急性冠症候群を鑑別すべきである(1B).心筋虚血のバイオマーカーは疑陽性を呈す ることが多く,診断には注意を要する(1B).

 

心臓突然死と不整脈

&.不整脈の誘発や治療効果の判定には運動負荷心電図やホルター心電図を施行する
&.不整脈を合併した透析患者では器質的心疾患を有する可能性が高く,心臓超音波検査や心臓核医学検査,必要に応じて,冠動脈造影検査を施行する(1B).
&.心室細動/粗動,持続性心室頻拍,洞不全症候群,洞房ブロック,高度房室ブロックは積極的に治療する(1A).
&.心房細動に対する安易なワルファリン治療は行わないことが望ましいが,ワルファリン治療が有益と判断した場合には PT-INR<2.0 に維持する(2C).
&.PT-INR の測定に用いる血液は血管(静脈,内シャント,グラフトシャント)より直接採取する(1C).

 

心臓弁膜症

&.無症候性の心雑音,うっ血性心不全や失神,狭心症,動脈塞栓症,透析困難症を伴う心雑音を聴取す る透析患者では心臓弁膜症を鑑別することを推奨する(1A).
&.心臓弁膜症の診断および重症度診断はドプラ心エコー検査にて行うことを推奨する(1A)*1). &.透析患者に合併した急性弁膜症では,感染性心内膜炎を鑑別することが望ましい
&.軽症および中等症患者では心エコー検査を定期的に行い,重症で手術適応のある患者では手術治療時期を逃さないことを推奨する(1A).

 

 

外科的治療虚血性心疾患

&.慢性腎障害は冠動脈バイパス術(coronary artery bypass grafting:CABG)の予後不良因子の一つ である(1B).
&.透析患者では,CABG が PCI(percutaneous coronary intervention)にくらべて遠隔期生存率が良 好である(2B).
&.透析患者では,人工心肺使用を回避することが周術期合併症を軽減する(2B).
&.透析患者では,グラフトに用いた大伏在静脈の劣化が早い可能性があり,CABG では内胸動脈を用いることが望ましい

 

外科的治療心臓弁膜症

&.透析患者の心臓弁膜症は,全身性の異所性血管石灰化の部分症候として捉える.
&.透析患者の弁膜症手術に際しては,術前,冠動脈造影,全身 CT,頸動脈超音波検査などによって動脈石灰化を評価することが望ましい
&.透析時の血圧低下が頻繁にみられる際は,心臓弁膜症の可能性があり,心臓超音波検査を行うことが望ましい(1C).

 

 

脳出血

&.発症 24 時間以内は透析を回避すべきである
&.発症早期の透析方法としては,持続血液透析濾過や腹膜透析,血流を減じた血液透析など,頭蓋内圧の上昇が小さい透析法を選択し,透析中にはグリセロールを投与し,抗凝固薬としてはメシル酸ナファモスタットを用いる
&.血圧コントロールは,急性期から積極的に行うことが望ましい
&.頭蓋内圧亢進を伴う大きな脳出血の急性期治療では,外科手術を考慮する
&.発症とともに,再発予防のために,厳正な血圧管理を行う

 

 

脳梗塞

&.発症早期には,持続血液透析濾過や腹膜透析,血流を低下させた血液透析など,頭蓋内圧の上昇が小 さい透析方法を選択すべきである.
&.抗血栓療法を行う場合,出血性合併症を予防するためには,透析時のヘパリン減量などの対策を行う.
&.心房細動に対するワルファリン治療は安易に行うべきではないが,有益と判断される場合には PT- INR<2.0 に維持することが望ましい(2C).
&.高度の頸動脈狭窄に対する頸動脈内膜摘除術や血管内治療の適応については慎重な検討が必要である (2C).

 

 

 

末梢動脈疾患

&.透析患者は糖尿病の有無にかかわらず PAD の独立した危険因子となる(B).
&.PAD 患者では同時に心血管障害の評価を行うことを推奨する(1B).
&.透析患者では膝関節以下の末梢で,高度の石灰化病変を伴う頻度が高い(B)が,症状が乏しく,早期発見に努めることが重要である.
&.足関節― 上腕収縮期血圧比(ankle-brachial systolic pressure index:ABI)を少なくとも年 1 回測定することを推奨する
&.治療では虚血の病態について十分に評価することが重要である.

 

 

透析患者における循環器系薬剤の使用

&.透析患者では腎排泄性薬物は,その排泄が遅延して血中濃度が上昇し,中毒性副作用が発現しやすい (A).よって,可能な限り肝代謝性薬物を選択すべきである(オピニオン).
&.腎排泄性薬物を投与する場合は,腎機能と薬物の尿中排泄率を考慮し,適切に減量した用量設定を行 い,定期的に副作用をモニターする(1A).
&.禁忌の薬剤を投与せざるを得ない場合がある.その際は,その有益性が副作用の危険性よりも高いと 予測される場合を除いて投与すべきではない(1A).
&.MRI のガドリニウム造影剤は Nephrogenic systemic fibrosis(NSF)を惹起する可能性があり,透 析患者では使用すべきではない(1C).

 

 

 

 

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