血液浄化器(中空糸型)の機能分類 2013

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血液浄化器(中空糸型)の機能分類 2013

はじめに

日本透析医学会では,1996年にはじめて血液浄化器の機能分類を策定し,その後 1999 年と 2005 年の 2 回見直しを行った.
機能分類の目的は,
(1)個々の患者に対し適正な治療法が選択され,
(2)個々の治療法に適した血液浄化器が使用されることにある.
一 方,血液浄化器をはじめとする透析関連技術は着実に進歩しており,患者病態に及ぼす影響も少しずつ変化している.
すなわち,その時代に呼応した機能分類の見直しが定期的に必要である.
一方,2006年の診療報酬改定時に特定保険医療材料である血液透析器の機能区分が実質的に 5 つに細分化され,本学会機能分類との乖離が生じ,今もその状態が続いている.
本学会の機能分類は学術的な見地からなされるべきものであるが,個々の患者に適した血液浄化器が使用されるという本来の趣旨からすると,この乖離は好ましいことではない.
以上の背景の下,日本透析医学会学術委員会血液浄 化療法の機能・効率に関する小委員会(以下,小委員 会)では,血液浄化器(中空糸型)の機能分類の見直しについて検討してきた.
2011 年,2012 年の学術集会・総会にてコンセンサスカンファレンスを開催し, 得られたコンセンサスを基に同小委員会にて最終調整を行い,本委員会報告を策定するに至ったものである.
なお本策定に際し,日本医療器材工業会人工腎臓部会 透析技術分科会(以下,医器工)とは常に情報交換を行い,小委員会にもオブザーバとして参加してもらい 性能評価法の妥当性等について意見を求めたことを付け加えておく.

概 要

表 1 に血液浄化器(中空糸型)の機能分類 2013 の概要を示す.
いままでの分類である機能分類 2005との差違を中心にその特徴を以下に列挙する.

1)治療法である血液透析(hemodialysis:HD),血液透析濾過(hemodiafiltration:HDF),血液濾過 (hemofiltration:HF)の分類に変更はないが,機能分類 2013 で対象とする血液浄化器は中空糸型のみであり,いわゆる特定積層型は含めない.

2)血液透析器については従来の 2 分類(I型,II型)に加え S 型が新設され,それぞれの血液透析器はI型/II型/S 型のいずれか 1 つの型として使用されなければならない

I型,II型血液透析器に関して,機能分類 2005 においては b2-ミクログロブリン(以下,b2-MG)のクリアランス 10 mL/min を境界値として分類されていたが,今回は 70 mL/min が境界値となった.
さらにI型,II型血液透析器に関して,蛋白非透過/低 透過型(a 型)と蛋白透過型(b 型)に細分類することとし,アルブミンふるい係数(SC)値 0.03 を境界値とした.
これらの変更は,実際の臨床における使用状況を考慮したことによる.
測定条件は表 1 に示すとおりである.

S 型血液透析器は特別な機能をもつものと定義され,具体的には生体適合性に優れる,吸着によって溶質除去できる,抗炎症性,抗酸化性を有するなど, 従来の溶質除去能(尿素,b2-MG のクリアランス) と異なる分類として新設された.
その背景には,その特別な機能ゆえに一部の臨床家によって根強い支持を受け続けているものの,実際の臨床における使用数は少なく市場原理によって淘汰されることを危惧する声が大きかったことによる.小委員会での議論などを踏まえ,現時点では EVAL®(ethylene vi- nylalcohol)膜とPMMA(polymethylmethacrylate) 膜血液透析器を S 型とすることとした.
今後,新たに開発される血液透析器についてはそのつど審議するものとする.

3) 血液透析濾過器については単一の分類とし,それぞれの血液透析濾過器は表 1 に示した後希釈用もし くは前希釈用のどちらかの性能基準を満たさなければならない.
この基準を満たしたものは,膜を介して濾過・補充を断続的に行う「間歇補充用」にも使用可能である.なお,いわゆる内部濾過促進型は血液透析濾過器には含めず,血液透析器に含めることとした.

4) 血液濾過器については単一の分類とし,その内容は機能分類 2005 と同じである.

5) 性能基準については表中の膜面積の値とする.
他の膜面積では勘案して読み替えるものとするが,その際測定条件も適宜変更するものとする. 6) 治療あたりのアルブミン喪失量の設定は,低アルブミン血症をきたさぬよう十分配慮すべきである.
1)それぞれの血液透析器はI型/II型/S 型のいずれか 1 つの型として使用されなければならない.
2)それぞれの血液透析濾過器は,後希釈用もしくは前希釈用のどちらかの性能基準を満たさなければならない.
基準を満たしたものは,膜を介して濾過・補充を断続的に行う「間歇補充用」にも使用可能である.
1性能基準値については,表中膜面積の値とする.他の膜面積では勘案して読み替えるものとする(その際,測定条件も適宜変更する).
*2希釈補正後の値
3特徴については,あくまでも 1 つの目安を示すもので厳格に分類されるものではない.
4特別な機能については,別途それぞれ評価するものとする.
5内部濾過促進型は含めない(血液透析器に含める).
治療あたりのアルブミン喪失量の設定は,低アルブミン血症をきたさぬよう十分配慮すべきである.

解説

今回の機能分類 2013 を策定するにあたり,本学会学術集会・総会でのコンセンサスカンファレンスや小委員会において十分な議論がなされた.
その内容について以下に言及する.

1) 血液浄化器の形状について
現在臨床で使用されている血液浄化器の形状は中空糸型と特定積層型の 2 種である.実際の特定積層型は PAN(polyacrylonitrile)膜血液透析器 1 種のみで生体適合性に特徴があることから S 型に分類すべきとの意見も出されたが,診療報酬上の機能区分の現状に合わせて,今回は対象外とした.
今後, 特定積層型を機能分類に含めるかについてはさらなる議論が必要である.

2) I型,II型血液透析器について現在の診療報酬上の血液透析器の機能区分は,b2-MG のクリアランス値をもって以下の 5 つに分類されている.
I型 10mL/min 未満
II型 10mL/min 以上 30 mL/min 未満
III型 30mL/min 以上 50 mL/min 未満
IV型 50mL/min 以上 70 mL/min 未満
V型 70 mL/min 以上
このうち,IV型(72.8%)とV型(21.0%)で大半を占めており,欧米諸国とは異なりいわゆる super high-flux 膜の使用が突出していることが本邦の特徴である.

今回の機能分類 2013 では b2-MG クリアランス 70 mL/min がI型,II型の境界値として採用された.
50 mL/min を境界値とすべきとの意見も出されたが,その場合II型が圧倒的多数を占めてしまい分類の意義が薄れること,上記IV型とV型で実質的な使い分けがなされているという意見が多数を占めたため 70 mL/min が採用された.

I型,II型血液透析器に関して,さらに蛋白非透過/低透過型(a 型)と蛋白透過型(b 型)とに細分類した.
概念図を図 1 に示す.
この背景には,従来透析膜はアルブミンの分離を目標としたシャープな分画分離特性が開発目標となっていたが,今日ではアルブミン近傍もしくはアルブミンに吸着した尿毒素を除去することによって病態が改善するとの考え方から,一部の患者にはブロードな分画分離特性をもつ透析膜の有用性が重んじられたことによる.
すなわち,シャープな分画とブロードな分画の両者を 使い分ける必要性が強調されたことになる.
具体的に a 型と b 型をどのように分類するかについてはいくつかの議論がなされた.
結果として, 本学会が昨年策定した「血液浄化器の性能評価法 2012」に則った方法で測定したアルブミンの見かけのふるい係数の値が採用された.
具体的な境界値として,2012年のコンセンサスカンファレンスでは 臨床評価(文献調査)での値で分ける案が提示されたが,診療報酬上血液浄化器の機能区分は医器工機能分類審査会において牛血系評価の値を基に審議することから,測定法を含めた具体案の提示を医器工に諮問することになった.
これに対し医器工は,牛血漿の取り扱い,抗凝固薬の使用,蛋白濃度の影響, 分析法による差違,測定値の経時変化などについて各社分担で検討し,BCG 法をベースとする統一した測定法を答申してきた.
また,同法によって測定された各社市販血液透析器のアルブミンふるい係数の値を報告してもらい,小委員会において臨床での使用状況を勘案して 0.03 を境界値として採用した.

BCG 法はアルブミン以外の分画も一部検出してしまうことから,免疫比濁法などに比べ厳密性に欠けることが一部で問題となったが,全社共通で統一した方法として評価できることを重視し同法を採用することになった.
従って,アルブミン濃度について通常の臨床検査(免疫比濁法など)に比べ若干高めの値となることに留意すべきである.

3) S 型血液透析器について特別な機能として,生体適合性に優れる,吸着によって溶質除去できる,抗炎症性,抗酸化性を有するなどと定義しているが,従来の溶質除去能(尿素, b2-MGのクリアランス)だけではその特徴を表現しきれない血液透析器を実質的に指す.
すなわち溶質除去よりもその特別な機能によって,一部の患者の病態改善に有効との見地に立っている.
EVAL®は構造水を有することから PVP(polyvi- nylpyrrolidone)などの親水化剤を必要とせず,血漿蛋白の吸着が少ない性質を持つ.
図 2 は透析中の経皮酸素分圧(TcPO2)の変化を示したもので, 改質セルロース(VE-C)膜やポリスルフォン(PS) 膜血液透析器に比べ EVAL 膜血液透析器の変動が小さく,患者の微小循環に及ぼす影響が少ないことが明らかとなった.
さらに血小板の活性化が少なく,好中球の活性化による活性酸素種(ROS)産生が少ないなどの報告がなされ,優れた生体適合性を有する膜素材であることが明らかとなっている.


PMMA はほぼ均一な対称構造を有することから膜抵抗は大きいものの比較的大きな細孔を持ち,アルブミンに近い大分子溶質の除去に優れたブロードタイプの分画特性をもつ.
さらに PVP などの親水化剤を用いないことから蛋白吸着特性をもち,特に膜透過が困難な大分子溶質の吸着除去を可能としている(図 3).
この特有の物質除去特性により, 瘙痒症の改善や高齢透析患者の体重維持に有効との報告がある.
仮に本機能分類 2013 の考え方が今後の診療報酬上の機能区分に反映された場合,上記膜素材以外の血液透析器で今後新たに S 型に分類すべきか否かについて議論する際,そのつど医器工機能分類審査会に小委員会が協力して審議することになる.
特別な機能そのものは,牛血系ではなく通常臨床で評価されるものと想定されるため,新規血液透析器についてはいったんI型,II型血液透析器として分類され,その後の臨床評価を経てメーカーがその意志に もとづいて S 型に変更申請し・審議を受けることになる.

4) 血液透析濾過器について従来,後希釈法オフライン HDF が主流であった本邦の HDF 療法は,2012 年診療報酬の改定に伴い, 現在急速に前希釈法オンライン HDF が普及しつつある.
これには,わが国における透析液清浄化レベルの高さ,欧米に比べ血流量が少なく後希釈法では積極的な液置換が困難なことなどが原因としてあげられる.
前述の「血液浄化器の性能評価法 2012」では,このような状況を考慮に入れた性能評価法が提唱され ているが,本機能分類 2013 では本評価法に則った性能基準が提唱されている.

しかしながら,血液透析濾過器の性能は後希釈用, 前希釈用として明確に区分できるものではなく,む しろ多様な性能をもつ血液透析濾過器を,個々の患 者の病態に合わせて使い分けることの重要性から浄 化器としては単一の分類とした.

また,膜を介して濾過・補充を断続的に行う間歇 補充型 HDF が診療報酬上オンライン HDF の一法 として認められている.
間歇補充型 HDF として以前臨床使用されていたプッシュプル HDFが該当するが,診療報酬上のオンライン HDF は認可された血液透析濾過器と専用透析装置の使用,オンライン透析液水質基準の 3 条件を満たした時のみ適用可であるため,現状ではプッシュプル HDF をオンライン HDF として施行することはできない.

一方,逆濾過透析液を間歇的に補充する間歇補充型 HDF(I-HDF)は上記 3 条件を満たせばオンライン HDF として施行可能である.
I-HDF は,例えば 1 回 200 mL の逆濾過透析液を 150 mL/min の流量で 30 分ごと計 7 回間歇補充するもので,末梢循環改善,plasma refilling 促進,膜性能の経時減少抑制などを目的とした治療である.
1 回の治療あたり 1.5 L 程度のごく少量のオンライン HDF ともみなせるが,特に「間歇補充用」の特別な血液透析濾過器が必要な訳ではなく,前述の「後希釈用」もしくは「前希釈用」の基準を満たした血液透析濾過器であれば,「間歇補充用」として使用しても何ら問題とはならない.

あとがき

現状に即した「血液浄化器(中空糸型)の機能分類 2013」を策定した.
純粋に学術的な見地から策定したものであるが,個々の患者に適した治療法/血液浄化器が選択されることに主眼をおいた今回の機能分類は,今後の診療報酬にも反映されることが強く望まれるところである. —-
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参考

血液浄化器(中空糸型)の機能分類2013
https://www.jseptic.com/ce_material/update/ce_material_02.pdf

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