透析シャントにおける動脈表在化

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動脈表在化について解説します。

動脈表在化

概念、定義

通常の内シャントが何らかの理由で作製できない症例で選択されるVAである。
表在化された動脈は脱血側に使用し,通常は皮下に存在する表在静脈の穿刺が毎回必要となる。
(日本透析医学会が作成したガイドライン)

動脈表在化の適応

1.内シャントによる心負荷に耐えられないと予想される症例
左室駆出率(EF)が 30~40%以下を動脈表在化作製の目安とする.

2.表在静脈の荒廃により内シャント手術が困難な症例

3.吻合する適当な静脈が存在しない症例

4.AVF でスチール症候群が生ずると考えられる症例,もしくは AVF(AVG)を使用していて,すでにスチール症候群を呈している症例

5.AVF を作製すると静脈高血圧症をきたすと考えられる症例,またはすでに静脈高血圧症をきたしている症例

6.頻回にアクセストラブルを発生する患者のバックアップ

7.透析療法以外でも,長期にわたり血液浄化療法を必要とする,例えば家族性高脂血症患者などで作製されることがある.

作製部位

上腕動脈表在化 第一選択
大腿動脈表在化 他のブラッドアクセス作製が困難時

穿刺可能な皮下静脈がない場合

1.中心静脈に留置したカテーテルを用いる.
2.深部静脈(内頸静脈,大腿静脈)を用いて内シャントを作製する(心機能低下のない場合).
3.グラフトを移植する(心機能低下のない場合).

表在化が造設される上腕の解剖

表在化上腕動脈が内シャントと異なる点

・人工血管内シャント(AVG)同様に分岐する血管がない。
(止血操作などで過度に圧迫すると血液の流れが遮られ、血栓性閉塞を来たす危険性がある。)
・血流は通常の動脈と同じで後負荷があることから70-100ml/分程度しか流れていない。
・RI≒1.0であり、常時高圧(血圧)がかかっている。
・シャント音しない。

表在化動脈の穿刺

・穿刺開始は十分な組織修復が済んだ後に行うことが重要。
特に皮下脂肪の厚い症例では脂肪融解が置き動脈が周囲と固着するのに時間要する場合がある。通常2~3週間程度で穿刺可能となることが多い。
・穿刺前の消毒はAVGなどと同様、感染回避のためにしっかりと行う。
・穿刺は表在化全長に渡り広域に穿刺することを心掛ける。 同一箇所の繰り返しの穿刺は血管壁の脆弱化を引き起こし仮性瘤形成のリスクが高まる。
・脱血に用い、返血は体表静脈に行う。
返血血管が無い場合には両腕での表在化も検討する。

• 常時流れている血流は70-100ml/分程度であり内シャントの様に多くの血流があるわけではない。
このため同一の表在化血管に A,Vの穿刺はしてはいけない。
同様にシングルニードルは使用してはいけない。
・穿刺は皮下脂肪の薄い症例では容易であるが、皮下脂肪の厚い 症例では適宜エコー下穿刺も検討する。
・後壁を貫いてしまうと血管内の圧が高いために容易に血腫となるため、注意が必要。
・穿刺角度などは通常AVF、AVGと同様で問題無し。
・必要血流量に合わせた穿刺針を選択(可及的に細い方が血管 ダメージが少ない)。
・躊躇なくエコーを用いる。
・返血側として使用する場合には、空気の混入は少量でも決して 許容してはいけない。

表在化動脈の穿刺手順

・拍動の確認:穿刺部のみならず末梢(手首橈骨動脈など)も 確認する。
・作製肢全体の色調変化の確認:閉塞によるチアノーゼなどが 無いか否か、腎硬化症や糖尿病性腎症などでは特に血管狭窄が 生じていることも多いので要注意
・消毒:施設で決まっている通常の消毒方法で構わないが、清潔 意識は常に持つ。
・穿刺:後壁穿刺しないように十分注意。脱血できる状況であっても、圧迫止血し血腫形成しないように注意。
・穿刺:同一部位の穿刺は瘤化、血栓形成などによる合併症を 来たすので広域穿刺を心掛ける。
皮膚の状態を見極める
血管の状態をきっちり想像する
皮膚はしっかりと伸展する
前壁を貫く感触を認識する
後壁に当った感触を認識する
内筒の先端が血管内に入ってから外筒が 血管内に入る。微妙な差を感じ取る
術後で浮腫がなく皮下組織と動脈が癒着してから穿刺を 始める →術後3~4週間程度が目安
観察ポイントは「みる」○「さわる」  X「きく」 
→拍動を触知し皮下脂肪の厚さ, 血管の太さや深さ, 硬さ, 走行 を確認
刺入角度は25~30度が適切だが, 血管の深さ, 太さにより 調整が必要
同一部位への反復穿刺は, 瘤や血栓の形成, 動脈壁の障害 などのリスクが高まる
瘤化した部位を避けて穿刺する 

表在化動脈の抜針・止血

・RI≒1.0、つまり常時動脈圧がかかっており、穿刺孔を確実に圧迫して止血しないと容易に血腫形成を来たす。
・一方過度な圧迫は血流停滞を来たし血栓形成のリスクが高まる。
・止血のガーゼは厚め硬めに折りたたみ使用することで適度に圧が調整しやすい。
・末梢での動脈触知を行い、抜針後5分くらいは強めに、そこから徐々に止血圧を緩めて15分程度は用手止血が望ましい。
・皮膚の穿刺孔と血管壁の穿刺孔がづれていることを理解(通常シャント同様)。
抜針は、止血すべき部分に示指を当てて行う。
止血は、出血しない最低限の力で行うべき。
拍動を指先に感じつつ止血を行うべき。
穿刺孔の下を血液が流れていることを感じつつ止血を行うことが大事である。 
止血時間の目安は15分程度程度である。

皮膚穿刺部位≠血管穿刺部位

RI≒1.0、つまり常時動脈圧がかかっており、穿刺孔を確実に圧迫して止血しないと容易に血腫形成を来たす。
一方過度な圧迫は血流停滞を来たし血栓形成のリスクが高まる。
止血のガーゼは厚め硬めに折りたたみ使用することで適度に圧が 調整しやすい。
末梢での動脈触知を行い、抜針後5分くらいは強めに、そこから 徐々に止血圧を緩めて15分程度は用手止血が望ましい。
皮膚の穿刺孔と血管壁の穿刺孔外れていることを理解(通常 シャント同様)。
止血圧調整しても止血困難な場合、抗凝固剤の減量、早期停止などの調整も検討要。

表在化動脈管理の注意点

瘤化した場合、毎回の視診、定期的なエコー検査を行う。
菲薄化したり急激に拡大する瘤は緊急手術の対象となる。
拍動の触知しない表在化動脈は閉塞の可能性あり。通常、側副路 の存在で前腕の壊死にまで至ることはほぼないが、エコーでの 血行動態の確認は必須。
返血使用の静脈への穿刺が困難となった場合には、早めに医師と 相談し対側へ2つ目の表在化動脈作製あるいはカフ型カテーテル 挿入術も検討する。

止血の合併症と有害事象

・不完全な止血による血腫形成は仮性動脈瘤の原因となる
・瘤破裂の危険がある場合は手術の適応

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参考

日本透析医学会 - (社)日本透析医学会「慢性血液透析用バスキュラーアクセスの作製および修復に関するガイドライン」
日本透析医学会は、腎不全および透析医学の学術・研究を推進させ、社会に貢献します

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