P T M C :経皮経静脈的僧帽弁交連裂開術

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このページでは、P T M C
経皮経静脈的僧帽弁交連裂開術
Percutaneous transvenous mitral commissurotomy
について紹介します。

P T M C:経皮経静脈的僧帽弁交連裂開術Percutaneous transvenous mitral commissurotomy

はじめに

僧帽弁狭窄症(MS)への経カテーテル治療であるPTMCは、わが国にて1980年代初頭からInoueらにより基礎ならびに臨床研究を経て実用化された最初の構造的心疾患への経カテーテル治療である。リウマチ性MSの治療法としてのPTMCはすでに確立されたといってよく、適応を誤らなければ、その効果は外科的交連切開術と同等である。

適応

1.僧帽弁狭窄症の成因と病態

成人でみられるMSの病因はほとんどすべてがリウマチ性と考えてよいが、時に加齢性に高度弁輪部石灰化を伴うもの、先天性MSに遭遇することもまれにある。 リウマチ性の場合には大動脈弁をはじめとする他の弁にも病変が及んでいることが多く、その場合には連合弁膜症をなる。 リウマチ性MSにおいては、弁尖の肥厚および石灰化、交連部の癒合、腱索・乳頭筋の肥厚・短縮および癒合、弁輪部の縮小がみられ、これらの病理変化により弁口部狭窄をきたすと同時に、左室心筋や左房筋にまで病変が波及する場合がある 一方、加齢に伴う変化においては僧帽弁輪の石灰化から始まり、弁尖方向に病変が進展することが特徴とされる。 リウマチ性MS症例は減少傾向にあるが、過去に僧帽弁交連切開術の既往がある。

2.心エコー法による僧帽弁狭窄症の評価

経胸壁心エコー法により,僧帽弁弁口面積,僧帽弁逆流,心機能,合併大動脈弁または三尖弁疾患,ならびに僧帽弁の詳細な性状を評価する。 弁膜と弁下部組織の変形ならびに石灰化の重症度が,PTMC の適応決定に大きく影響するが,より客観性のある指標としてWilkins スコアが汎用されている。 弁膜可動性,弁下部組織変化,弁膜肥厚,石灰化の4 項目について評価を行い,項目ごとに0~4 点で病変重症度に応じて得点化していくが,総合点が上昇するに従い,弁膜の変形石灰化がより高度であることを示している。 同スコアは,治療成功率,僧帽弁逆流発生のリスク,長期予後と密接に相関する指標となるが,8点以下は,PTMC に適した弁膜形態と判断され,良好な長期予後を期待することができる。 12点以上の症例では,治療に伴う合併症リスクが増大すると同時に,術後早期から長期にわたる治療効果が著しく低下することがわかっている。
重症度弁の可動性弁下組織変化弁の肥厚石灰化
1わずかな制限わずかな肥厚ほぼ正常
(4~5mm)
わずかに輝度亢進
2 弁尖の可動性不良 検索近位2/3肥厚弁辺縁肥
(5~5mm)
 
 弁辺縁輝度更新
3弁基部のみ可動 検索遠1/3以上肥厚 弁膜全体肥厚
(5~8mm) 
弁中央部まで輝度更新
4 ほどんど可動なし全検索肥厚 
短縮、乳頭筋
 弁全体弁膜大部分輝度更新 
Wilkins スコア

3.PTMCの臨床的適応

一般的にMSの外科的治療の適応は、薬物治療を行ってもNYHA心機能分類Ⅱ度以上の臨床症状
があり弁口面積が1.5 ㎠以下の場合とされており、PTMCの適応も基本的にはこれに準じる。 クラスⅠ
1. 症候性(NYHA 心機能分類II ~ IV 度)の中等度以上MS で弁形態がPTMCに適している例.
2. 無症候性であるが,肺動脈圧が安静時50mmHg以上または運動負荷時60mmHgの肺高血圧を
合併している中等度以上MSで,弁形態がPTMCに適している例. クラスIIa
1. 臨床症状が強く(NYHA 心機能分類III ~ IV 度),MR や左房内血栓がないものの弁形態は
必ずしもPTMCに適していないが,手術のリスクが高いなど手術適応にならない例. クラスIIb
1. 症候性(NYHA 心機能分類 II ~ IV 度)の弁口面積1.5cm2以上のMS で,運動負荷時
収縮期肺動脈圧60mmHg,楔入圧25mmHg以上または左房左室間圧較差15mmHg以上
である例.
2. 無症候性であるが,新たに心房細動が発生したMSで弁形態がPTMCに適している例. クラスIII
1. 軽度のMS.
2. 左房内血栓または中等度以上MR のある例.

4.PTMCの不適応

① 左房内血栓
抗凝固療法に抵抗性を示す左房内血栓で,左房壁に付着したり可動性のある血栓については,PTMCは絶対禁忌である.左心耳血栓には,十分な抗凝固療法を3 か月以上実施したうえで,熟練した術者による注意深い治療手技により左心耳へのデバイスの迷入を回避できればPTMCが可能と考えられている. ② 術前の中等度~高度な僧帽弁逆流
III 度以上の僧帽弁逆流はPTMCによりさらに増悪する可能性が高く,最初から外科的治療の対象となる. ③ 高度または両交連部の石灰沈着
弁膜の変形と石灰化が著明な例(Wilkins スコアが12 点以上),偏在性の高度石灰化例では
裂開困難,弁腹の裂傷による逆流発生が起こりやすい. ④ 心臓血管外科的手術の対象となる他疾患の併存
冠動脈バイパス術(coronary artery bypassgrafting; CABG)適応冠動脈疾患,三尖弁縫縮術を
要する重症三尖弁逆流症,重症三尖弁狭窄症,重症大動脈弁逆流症は,MSとあわせて一括して
外科的に治療することが望ましい. ⑤ 心房中隔穿刺困難例:胸腰椎の著明な変形,胸縦隔内疾患または腫瘍による心臓の変形や圧迫
などによる,心房中隔穿刺の危険がある,または不可能な例.

手技

【術前の準備】 ・ PTMC イノウエバルーンカテーテルセット
・ サーモダイリューションカテーテル
・ Pigテイルカテーテル
・ 心房中隔穿刺針
・ 心房中隔穿刺用カテーテル
・ 稀釈造影剤(造影剤10cc+生理食塩水40cc)
・ 同時圧測定記録装置
・ 超音波装置 【術前の処置】 ・ ワーファリゼーション
・ 前投薬(通常のカテーテル検査と同様に軽い鎮静剤を投与する) 【術後の管理】 ・ PTMC終了後約3~5時間後に超音波検査を施行し、タンポナーデの有無を確認する
・ 24時間安静にする、以後は通常に歩行可
・ 2~3日後に退院可、以後は就労可 償還分類 「130」心臓手術用カテーテル
(5)弁拡張用カテーテル    148,000円
「015」弁拡張用カテーテル用ガイドワイヤー
(1) ガイドワイヤー 24,500円
(2) 僧帽弁誘導用スタイレット 24,100円 手技料 第10部 手術 第1節 手術料 第8款 心・脈管
区分「K559-2」経皮的僧帽弁拡張術  34,930点
注 手術に伴う画像診断及び検査の費用は算定しない。 【術前の抗凝固法】 ・ 心房細動の患者には、ワーファリンを4週間以上投与し、INRで正常値1.1~1.2、
Af等だと2.0~2.5で管理する ・ ワーファリンの投与を突然中止した場合はリバウンド現象が起こり、血栓が新生しやすく
なるのでPTMC施行まで止めない 【PTMC施行中のヘパリン投与量】 ・ ワーファリン投与中の患者には総量100U/kg、それ以外の患者には150U/kgを投与 ・ 症例開始時に半量、心房中隔穿刺後に残り半量を投与する 【術直後の止血】 ・ ワーファリンとヘパリンを併用した場合は穿刺部の止血が長引くことがある ・ ヘパリンと同量のプロタミンを投与すれば止血時間を短縮できる 【イノウエバルーンを僧帽弁口へ挿入する】 ・ イノウエバルーンの先端部分を稀釈造剤を1~3ml注入し直径10~15mmの
大きさに膨張させる ・ 血流に乗せて弁口へ容易に流入させ、左室内で腱索の間に迷入することを防ぐ ・ スタイレットをイノウエバルーンの先端まで挿入すると、先端がJ型を描き下方へ向ける ・ スタイレットを反時計方向に捻りながら4~5cm引き抜くと、イノウエバルーン
は心拡張期に、左室内に流入する ・ スタイレットを操作する際はカテーテルを保持し、内チューブを保持しない。
内チューブをスタイレットと一緒に捻ってしまうと、以降の操作が困難になる。
(バルーン部分のインナーチューブが捻れてしまうため) ・ 腱索の間に迷入した場合は、バルーン部分は左室内で折れ曲がり動かない ・ 適正に挿入された場合は心尖部に向かい直線的に深く挿入される ・ 先端は意図的にまたは心拍動に同期して左室内で自由に動く ・ 先端半分を膨張させ、左室内で心尖部と僧帽弁の間を意図的に
移動させることが可能

合併症

【本品の使用にあたって、予想される合併症は次のようなものがあります】 弁逆流の増加
血管迷走神経性反応
心房細動、心ブロック、徐脈、心室頻脈や心室細動等の不整脈
血管損傷
鬱血性心麻痺や肺水腫
心筋損傷、心穿孔、心タンポナーデ
僧帽弁損傷、腱索の断裂
血栓症、塞栓症、弁切開断片や石灰化片での塞栓、空気塞栓症
心筋梗塞
一過性虚血性脳発作、一過性視野欠損
出血、血腫
心房中隔欠損
感   染
造影剤や本品部材(天然ゴム等)によるアレルギー性症状
バルーン拡張等における弁口閉鎖による血圧低下
呼吸停止
腎 不 全 【禁忌】 sellers 分類で僧帽弁逆流の程度が3度以上
sellers 分類で大動脈弁逆流の程度が3度以上
細菌性心内膜炎
新鮮な(やわらかい)左房内血栓形成の疑い
心房中隔または弁に血栓の付着の疑い 【警告】
弁の硬化、石灰化、弁下狭窄の程度が著しい場合、弁口拡大の効果が劣り、
僧帽弁逆流の発生頻度がやや高くなる傾向があります。このような症例に本法を
施行する場合は、最初は小さめのバルーン径で拡張し、必要に応じてバルーン径を
大きくして拡張を行って下さい。
弁拡張後、僧帽弁逆流の発生あるいは増加が有意に認められた時は、それ以上
弁拡張は行わないで下さい。
この製品は天然ゴムを使用しています。
天然ゴムは、かゆみ、発赤、蕁麻疹、むくみ、発熱、呼吸困難、喘息様症状、
血圧低下、ショックなどのアレルギー性症状をまれに起こすことがあります。
このような症状を起こした場合には、直ちに使用を中止し、適切な措置を施して下さい。

治療成績

治療効果の平均像は,弁口面積が1.0 cm2 ⇒1.8~2.2 cm2 へ増加するに従って,
僧帽弁圧較差は13mmHg ⇒6 mmHg に減少し,左房圧は24 mmHg ⇒19 mmHg
に減圧する. 治療に伴う合併症として,有意な僧帽弁逆流を12.5%の症例に認め,2.5% の患者において
高度僧帽弁逆流のために入院中に外科的弁置換術が行われていた. 入院中の死亡率は1% 未満にとどまるが,おもに高齢者,全身状態が不良な患者,ならびに
心原性ショックに対して実施された例にみられている. 脳梗塞の合併は,活動性の左房内血栓を確実に除外して,血栓が存在する場合も適切な
抗凝固治療を十分な期間行うことにより,1% 前後に抑えられる. 心穿孔は心房中隔穿刺術によるものとカテーテル操作に合併する例をあわせて1% 前後に報告
されている. 肺体血流比が1.5 を超えるASD の残存が2% の症例でみられるが,左室―左房内圧が高い
症例に発生しやすい傾向がある 長期予後と最も強い相関関係があるのが,心エコーによる弁病変スコアである.弁膜の形状が
理想的な若年患者であれば,5 年後のイベントフリー生存率は80%とされている. 一方,高齢患者にみられるように弁膜の変形が高度な症例においては,5 年後のイベントフリー
生存率は60%に低下することが報告されている. 長期予後に影響を与えると同時に心血管イベント発生(死亡,外科的弁膜手術,再PTMC)
の増加につながる因子として,Wilkins スコアが8 点を超えること,高齢患者,外科的交連
切開術の既往,術前の心機能がNYHA IV 度,術後の肺高血圧の持続,術前僧帽弁逆流
がII 度以上もしくは術後僧帽弁逆流がIII 度以上であること,そして心房細動の持続,をあげる
ことができる. 治療の目標の一つとなる,長期経過における外科的僧帽弁直達手術の回避効果は,日本人
での長期治療成績においてもPTMC 施行後の弁口面積が1.5 cm2 の場合,有意に低率と
なり,PTMC 施行にて1.5cm2 を超えることが治療の目標の一つとなる. 弁膜の性状が良好な若年層に限ると,PTMC 成功例については,12 年間のフォローアップに
おいて,その予後は外科的交連切開術群と同等の成績を期待することができる.


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