セプザイリスは、AN69ST膜を用いた持続緩徐式血液濾過器(ヘモフィルタ)です。
CHDFなどの持続的血液浄化の回路に組み込んで使い、濾過・拡散による物質除去に加えて、膜そのものがサイトカインを吸着する点が最大の特徴です。
セプザイリスの基本情報
| 一般的名称 | 持続緩徐式血液濾過器 |
| 販売名 | セプザイリス |
| 承認番号 | 22500BZX00401000 |
| 膜素材 | アクリロニトリル・メタリルスルホン酸ナトリウム共重合体(表面処理剤:ポリエチレンイミン) |
| 製造販売 | 株式会社ヴァンティブ(旧バクスターから移管) |
サイズは3種類です。膜面積が大きいほど血液側容量(充填量)も増えるため、体格・循環動態・治療条件に合わせて選択します。
| sepXiris 60 | sepXiris 100 | sepXiris 150 |
| 有効膜面積 | 0.6 m² | 1.0 m² | 1.5 m² |
| 血液側容量 | 47 mL | 69 mL | 107 mL |
| 中空糸 内径/膜厚 | 240/50 µm | 240/50 µm | 240/50 µm |
(出典:
セプザイリス添付文書(PMDA・2024年5月改訂 第5版))
使用目的(どんな患者に使うか)
下記の適応患者に対して、数時間ないし数日間にわたり持続的に血液濾過を行うことにより、血液中の尿毒物質、その他の有害物質の除去、及び血液中の水分、電解質を緩徐に除去・調整、さらにサイトカインを吸着除去し、病態の改善をはかることを目的とする。
(1)重症敗血症及び敗血症性ショックの患者
(2)敗血症、多臓器不全、急性肝不全、急性呼吸不全、急性循環不全、急性膵炎、熱傷、外傷、術後等の疾患又は病態を伴う急性腎障害の患者、あるいはこれらの病態に伴い循環動態が不安定になった慢性腎不全の患者
添付文書【使用目的又は効果】(2024年5月改訂・第5版)
注目したいのは、使用目的に「サイトカインを吸着除去し」と明記されている点です。通常のヘモフィルタの使用目的は水分・溶質の除去で、吸着は書かれていません。ここがセプザイリスの位置づけを表しています。
サイトカインを吸着するしくみ
AN69膜=強い陰性荷電のハイドロゲル膜
AN69膜は1969年に開発された合成高分子膜です。メタリルスルホン酸に由来するスルホネート基を多数もつため膜全体が強い陰性荷電を帯びており、このスルホネート基が水を引き寄せてハイドロゲル構造をとります。そのため吸着は膜の表面だけでなく、膜の厚みの内部(バルク層)でも起こるとされ、高い吸着容量につながっています(Hattori & Oda, Ren Replace Ther 2016)。
吸着の正体はイオン結合
吸着の機序はシンプルで、膜の陰性荷電(スルホネート基)と、サイトカイン分子表面のアミノ基(陽性荷電)とのイオン結合です。実験的な裏付けもあります。AN69ST膜のサイトカインクリアランスはサイトカインの等電点と相関し、灌流液のpHを7.6から6.8に下げるとすべてのサイトカインでクリアランスが上昇します。荷電をもたないPMMA膜では等電点との相関はみられません(Moriyama et al, J Artif Organs 2020)。
なお「吸着膜だから他の膜より優れている」と単純化はできません。PMMA膜も膜全体に及ぶミクロポア構造への吸着能をもち、後述のRCTでは、除去が得意なサイトカインの種類が膜によって異なることが示されています。
「ST」=表面処理の意味
STはsurface treatment(表面処理)の略です。もともとのAN69膜(native AN69)は、強い陰性荷電のため血液と接触するとブラジキニンを産生することが知られていました。そこで血液接触面を陽性荷電のポリエチレンイミン(PEI)で部分的にコーティングし、表面のゼータ電位を下げてキニンの産生を抑えたのがAN69ST膜です。バルク層の陰性荷電はそのまま保たれるため、サイトカイン吸着能は維持されます。
ACE阻害薬併用時のアナフィラキシー様反応に注意
AN69膜で最も有名な相互作用が、ACE阻害薬併用時のアナフィラキシー様反応です。
- ACE阻害薬服用中の患者がAN69膜を使用した際の重篤なアナフィラキシー様反応が報告されています(Tielemans et al, Kidney Int 1990)
- 反応を起こした患者では補体(C3a)やヒスタミンは上昇せず、ブラジキニンだけが著明に高値でした(Verresen et al, Kidney Int 1994)
機序は、膜との接触によるブラジキニン産生の増加に、ACE阻害薬によるブラジキニン分解のブロックが重なることです。AN69ST膜はキニン産生を減らす目的で表面処理されたものですが、AN69ST膜とACE阻害薬の組み合わせでも有害事象の報告はあります(Roux & Plaisance, Nephrol Dial Transplant 2007)。導入前にACE阻害薬の服用歴を必ず確認してください。
プライミング(添付文書の手順)
- 抗凝固薬(未分画ヘパリン5,000IU/L)を添加した生理食塩液等の電解質輸液をプライミング液として準備する
- 1,500mLのプライミング液で血液側を洗浄・プライミングする
- プライミング終了時点で、回路内にはヘパリン添加生理食塩液が充填されている
- 医師は患者の出血リスクを考慮したうえで、ヘパリン無添加生理食塩液による追加プライミング(500mL)が必要か検討する
ヘパリン加生理食塩液でプライミングすることには「膜表面がヘパリンでコーティングされる」という意味があります(Chanard et al, Nephrol Dial Transplant 2008)。一方で、終了時点の回路内にはヘパリンが充填されているため、出血リスクの高い患者では追加プライミングの要否を医師が判断します。手順4はそのための工程です。
敗血症での位置づけ(J-SSCG 2024)
いちばん誤解しやすいところです。セプザイリスは使用目的に重症敗血症・敗血症性ショックが明記された機器ですが、ガイドラインで推奨されている治療ではありません。
現行の日本版敗血症診療ガイドライン2024(J-SSCG 2024、日本集中治療医学会・日本救急医学会、2024年12月公開)の急性血液浄化の章の推奨は次のとおりです。
| CQ | 推奨(原文) | GRADE |
| CQ4-1(PMX-DHP) | 敗血症に対して、PMX-DHPを行わないことを弱く推奨する | 2D |
| CQ4-2(早期の腎代替療法) | 敗血症性AKIに対して、早期の腎代替療法を行わないことを弱く推奨する | 2C |
| CQ4-3(持続か間欠か) | 持続的治療・間欠的治療のどちらを選択しても構わない。ただし、循環動態が不安定な症例については持続的治療を選択する(Good Practice Statement) | 2D |
| CQ4-4(血液浄化量) | 血液浄化量を国際的な標準量(20〜25mL/kg/hr)よりも増やさないことを強く推奨する | 1A |
読み取っておきたいのは3点です。①AN69ST膜によるサイトカイン吸着そのものを対象としたCQは見当たりません。②同じ「吸着」の系譜であるPMX-DHPは「行わないことを弱く推奨」と否定方向です。③唯一の強い推奨(GRADE 1A)は「血液浄化量を標準量より増やさない」で、浄化量を上げればよいという発想は明確に否定されています。
臨床エビデンスの現在地
| 研究 | デザイン | 結果 |
| Shiga et al, Blood Purif 2014 | 単群・多施設前向き(対照群なし)34例 | APACHE IIスコア32.7±9.8(予測生存率20.3%)に対し、28日生存率73.5% |
| 浅野・内野, 日本外科感染症学会雑誌 2018 | 総説 | 「予後改善効果を証明するに至っていない」「使用を推奨する根拠は乏しい」 |
| Nakamura et al, Eur J Med Res 2023 | パイロットRCT n=52(AN69ST vs PMMA) | HMGB1・TNF-α等はAN69STが優位、IL-6はPMMAが優位。死亡率に有意差なし |
| Hayashi et al, Artif Organs 2023 | 後ろ向き観察(DPC・マッチング545ペア) | 院内死亡率35.8% vs 41.8%(p=0.046) |
まとめると、吸着のメカニズムは一次情報でよく裏付けられている一方、予後を改善するというエビデンスはRCTでは示されていません。34例で28日生存率73.5%という数字は目を引きますが、対照群のない単群研究であり、これ単独を有効性の根拠にはできません。現場としては「サイトカイン吸着に期待して使う機器であり、ガイドラインに推奨されて使う機器ではない」という理解が実態に近いはずです。使用にあたっては施設のプロトコルと最新の原典を確認してください。
警告・禁忌(添付文書)
治療中は、患者について常に十分な観察を行うこと。[患者によっては治療中に血圧低下等の重篤なショック症状が現れる事がある。また長時間抗凝固剤を使用して治療を行うことから出血又は凝固傾向が生じることがある。]
添付文書【警告】
禁忌・禁止は「再使用禁止」です。
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参考(一次情報)
本記事は2026年8月に、添付文書(第5版)とJ-SSCG 2024に基づいて全面的に書き直しました。